「肩貸してあげるから、少しこのまま寝てな」

「え……?」

「だいぶ酔ってるみたいだから」



……気づかれていた。

静には、なにからなにまでお見通しだなぁ。

そしてそれに甘えてしまう自分が、情けない。



けれどそれ以上に安心感が込み上げて、私はその肩に頭を預けると目を閉じた。

かすかな車の振動と、肩を抱く大きな手が心地よい。

ほのかに漂う香りは、清潔感のある香水の香りで、彼をまた大人に感じさせた。



だけどこうして安心して甘えてしまうのは、きっと懐かしさのせい。

時折感じるときめきも嬉しさも、あの頃の思い出に浸っているだけだ。



……今の私は、初恋という思い出に逃げているだけなのかもしれない。

だって、現実は向き合えないくらいに苦しい。



静は今の私を肯定してくれた。

けど、私自身は自分が情けなくて仕方がない。



ときめくたび、恋心を思い出すたび、頭に上原さんの姿がちらつく。

もう未練なんてない。好きだなんて気持ちもない。

だけど、すっぱり断ち切って忘れられるほど強くもない。



そんな感情に引きずられて、これまでやってきた仕事を投げ出すことになった。

中途半端に投げ出すならいっそ、全て捨ててしまえればいいのに。



自分がどうしたいのかもわからない。

すべて曖昧で中途半端。頭の中がぐちゃぐちゃに入り乱れて、感情が一気に押し寄せてくる。