クールな弁護士の一途な熱情




「そういえば思い出したんだけどさ。入江、高校の時バスケ部の試合でゲーム終了ギリギリにゴール決めたことあったよね」

「え?」



ところが、静が突然切り出したのは全く関係ない話題だった。

唐突すぎて意味がわからず思わず顔を上げると、静はこちらを見て穏やかな笑みを見せている。



その表情は、まるで『見損なったりしない』とでも言ってくれているかのようで、安心感が込み上げた。



「そ、そういえばそんなこともあったかも……けど、なんでいきなり?」

「いや、ふと思い出してさ。あの時入江、顔面から転んで鼻血出しながらもゴール決めて、試合は勝ったけど大騒ぎだったなぁ」



鼻血を出した私の姿を思い出しているのだろう。静は、テーブルの上のサラダを小皿に取りながらおかしそうに笑う。



……そんな恥ずかしいこと、忘れてほしい。

自分ですらもすっかり忘れていた。



それは、高校3年生の春。

その日学校の体育館で行われたバスケ部の試合は、夏の大会に向けて絶対勝っておきたい試合のひとつだった。

相手は格上だったけれど、全員で必死に食らいついて攻防し、迎えた試合終了1分前。

私たちは惜しくも1点差で負けていた。



なんとか点を取りたいと無我夢中でボールを取り合った際転んで、床に思い切り顔をぶつけたけれど、それでも諦め切れなかった。

走って、ボールを奪って、ゴール目がけてシュートした。

そのボールは奇跡的にゴールに入り、私たちの学校は試合に勝つことができたのだった。