クールな弁護士の一途な熱情




「ここで、いろんな依頼者ひとりひとりの悩みと向き合って、一緒に解決していけることが嬉しいんだ。それだけは、これから先どれだけ事務所の規模が大きくなろうとも絶対譲れない」



大手から抜けて独立するのは、勇気がいっただろう。

怖いとか不安とか、様々な気持ちが押し寄せたと思う。

だけど静はそれでも自分の譲れないもののために、踏み出したんだ。

今でも、前を向いて。



「すごいなぁ……静は、ちゃんと前向けてて」



本心からぽつりともらした言葉に、静は少し照れ臭そうに笑う。



「なに言ってんの。入江にだって譲れないものがあるから、まだ会社に残ってるんでしょ」



それは、昼間の話の続きのよう。

私にも譲れないものがあるから、会社を辞めることなく残ってる?

なんて、そんなの。



答えに詰まり、グラスの中のレモンサワーをひと口飲む。

そして、小さく炭酸を吐き出すように声を漏らした。



「……どう、だろ」



静の言葉に対して出てくるのは、曖昧な答え。



譲れないもの、なんてそんなかっこいいものが私の中にあるのかな。

……ううん、きっとない。



「これまで自分がやってきたことを無駄にしたくないとか、逃げたら負けだとか、そんな自分本位なプライドしかないのかも」



私の中にあるものは、自分のための感情ばかり。

誰かのためを思う静とは、まるで違う。



そんな自分が情けなくて、かっこ悪くて、手にしていたジョッキを置いてうつむく。



静が、どんな顔をしているか見るのが怖い。

見損なわれてしまうんじゃないかとか、そんな不安が胸によぎる。