「けど、ってハッキリしない言い方ねぇ。どんな理由があるにせよ、辞めたくないから休んでるんじゃないの?」
「……それもあるんですけど、なんていうか。踏ん切りつかないだけかも、しれないです」
辞めたくないから、休んでる。
確かにそう。それくらい大好きな仕事のはずだった。
ううん、今でも。やっぱりこれまで自分がしてきた仕事が好きだし、大切だ。
なのに、あのオフィスでの日々を思い出すと必ず“彼”の面影が一緒についてきて、また心が沈む。
いっそ、辞めてしまえればいい。
すべて忘れようと断ち切れたらラクなのに。
『……ごめん。俺、果穂のこと選べない』
また思い出すあの日の声に、それ以上の言葉が出てこなくなってしまった。
その時だった。
突然横からぬっと顔が現れたかと思うと、その顔は私が手にしたままでいたクッキーをパクッとひと口かじった。
「わぁ!」
あまりに突然のことに驚き振り向くと、それは静だった。
「ん、おいしい」
静は口の端についたカスを拭いながら、平然と感想を述べてみせる。
「私のクッキー!勝手に食べないでよ!」
「ひと口もらっただけじゃん」
いきなり近付くから、心臓に悪いのよ!
そりゃあ騒ぎたくもなってしまう。
怒りながら静にかじられたクッキーを口に押し込んでいると、そのやりとりを見ていた壇さんが、ふと思い出したように言う。
「あ、そうだ。いきなりだけど今日さ、果穂の歓迎会やらない?」
歓迎会?
突然のその提案にキョトンとしてしまう私の一方で、花村さんは笑顔で頷く。



