「なんで?伊勢崎確かまだ独身でしょ?」

「だろうけど、彼女はいるかもしれないし……ってそこじゃなくて!一度別れてるのにやり直すとかないから!」

「わからないよー?一度は付き合ってるからこそ、また恋に落ちる可能性だってあるかもしれないじゃん」



既婚者故の説得力か、つい納得させられそうになりながら思い出すのは、先日の静とのやりとり。



『俺は今でも、入江のこと好きだけど』



あの翌日から静の前では平静を装っているし、静も不意に近づいてくることもない。

けれど、ふとした瞬間にその言葉を思い出してひとり照れている自分がいる。



あんなの、からかってるだけって分かってるのに、軽く流せないなんて……!

思い出して両手で顔を覆う私に、映美は意味がわからなそうに笑う。



「ま、とにかくなにか進展あったら教えてよね!親友なんだから!」

「とか言って絶対楽しんでるだけでしょ……」

「あ、バレた?」



もう、と映美に怒ると、私は目の前のお皿に盛られたケーキをバクッと食べた。



復縁なんて、ないない。

今や弁護士として活躍する静と、こんな私じゃ世界が違うと知ったし。

静からすれば、もはや過去のことをネタにからかえるくらいの相手なのだろうし。



……それに私自身、恋愛とか結婚とか今はまだそんなことを考える気持ちにはなれない。

中途半端のまま踏ん切りもつかない、進めない。



こんな気持ち、早く断ち切らなくちゃとは思っているのだけど。