弁護士事務所の事務だなんて、これまでの職種とは全く違う仕事。
しかも同級生で、元カレのもとでだなんて。
やりづらいにもほどがある。
けど確かにバイトくらいすれば、毎日『結婚か働くか』とうるさいお母さんも多少落ち着いてくれるかもしれない。
それに私自身も、少しは気晴らしになるかもしれない。
……さらに言ってしまえば。
真っ直ぐこちらを見る、犬のような彼の黒い瞳に弱いのもある。
でも、どうしよう、と心の中で激しく迷う。
するとそこに、突然コンコンとドアをノックする音が響いた。
静の「はい」という返事を待って、茶色いドアが開かれる。
「伊勢崎先生、お洋服持ってきました……って、あら」
そこから姿を現したのは、黒いロングヘアの女性。
私より少し年上だろうか、メガネをかけたその女性は体にぴったりとした白いスーツ姿で、手にはアパレルブランドの紙袋を持っている。
彼女は状況を探るように、私と静をまじまじと見た。
「ごめんなさい、お取り込み中だったかしら?」
「え!?いえ、お構いなく!」
その言葉に、静に肩を掴まれたままだったことに気がついて、私は慌てて彼から距離を取る。
そんな私の反応に女性はくすくすと笑った。
すると静はにこりと笑顔を見せ口を開く。



