「とりあえずこれ使って」
「ありがとう」
「服、今うちの社員が適当に用意して持ってきてくれるっていうから。それまで申し訳ないけど、ちょっと我慢してて」
白いタオルを受け取ると、濡れた髪や腕をそっと拭う。
そんな私の前で、彼はスーツのジャケットを脱ぎソファの背もたれに雑にかけた。
「でも、なんであんなところで彼女と喧嘩なんて?」
「違う違う、彼女じゃない」
私の問いに静は間髪入れずに否定する。
「仕事のことを社外の人に話すのは禁止なんだけど……まぁ、入江は巻き込まれた被害者だし、特別に話すけど」
そしてそう前置きしてから、髪をかき口を開いた。
「彼女、俺の依頼人と離婚協議中の相手なんだよ。なのに『旦那に離婚を撤回するよう説得してほしい』ってずっと言われててさ」
「へ、へぇ……」
「けどそもそもは彼女の不倫が原因だし、俺は依頼人側の人間だからって伝えてはいるんだけどね。今日もあの近くのカフェで話をしたんだけど納得してくれなくて、あそこまでついて来て怒り出して」
それで、あの怒りっぷりだったわけだ。
あの女性の『人のこと不幸にしてなにが楽しいのよ!』というセリフを思い出し、そういうわけかと納得できた。
いろんな人がいるんだなぁ、その矛先を向けられる弁護士は大変だ。
同情すら感じていると、静は「けど」とこちらを見る。



