残暑がようやく過ぎ去り、徐々に肌寒い日も増えてきた10月頭。

今日も忙しなく人が行き交う西新宿のオフィス街。その中にあるオフィスビルに、私はいた。



「入江さん、商品データ送りました。確認お願いします」

「ありがとうございます」



白いブラウスにカーディガンを羽織り、髪はひとつに束ねて、バタバタとフロア内を歩く。



復職後、私が異動してきたのは【リトル・サマー】という社内で最も新しいブランドだ。

ドラッグストアで手軽に買える低価格コスメ、というこれまでいたブランドとは真逆のこのブランドの商品企画部で働いている。



チーフという立場は降りたけれど、これまでの経験を活かしながらここでのやり方も覚えて、と慌ただしくも充実した毎日を過ごしている。

パソコンに送られたデータを確認していると、通りかかった部長が感心したようにこちらに目を止めた。



「それにしても、異動して一ヶ月とは思えない働きぶりだなぁ。こりゃあここでもチーフになるのは時間の問題かな」

「とんでもないです。みなさんが親切に教えてくださるおかげです」



部長の言葉に、私はそう答えてふふと笑う。


復職直後は、社内中の人からいろいろなことも影で言われたけれど、幸いここのブランドはいい人が揃っており皆なにも聞かず受け入れてくれた。

部屋も違うので上原さんと顔を合わせることもなく、仕事に夢中になるうちに気づけば陰口も引いていた。


こうして時間とともに、少しずつ日常に戻っていくのだろう。