「とりあえず、こっち来て」



静はそう言うと、私の腕を引いて歩き出す。

そして近くの駐車場に停めてあった黒い乗用車のもとへ向かうと、助手席のドアを開けた。



「乗って。そのままじゃ帰れないでしょ」

「でも、車のシート濡れちゃう」

「気にしなくていいから」



見るからに高級そうな車だ。そこにこの姿で乗るには勇気がいる。

けど確かに、こんなずぶ濡れでは電車もタクシーも乗れないだろうし、服を買い直そうにもお店に行くのも恥ずかしい。



そう思うと観念して、けどせめてもの気遣いで服の水を精いっぱいしぼってから乗り込んだ。



静は運転席に乗ると、シートベルトを締めながらスマートフォン片手にどこかへ電話をかけている。

そんな彼をチラ、と見て、あの頃とあまり変わらない顔立ちにやはり本物だと実感した。



な、なんでこんなところに静が?

そりゃあ、お互い地元だしいてもおかしくはないけれど。

まさかのタイミングでの再会に、濡れた服の冷たさを気にする余裕もないほど動揺してしまう。



茶髪が黒髪に変わった以外、見た目はあんまり変わらないけど、やっぱり多少は大人っぽくなったなぁ。

紺色のスリーピースのスーツもよく似合っているし、左耳のピアスホールも綺麗に塞がれている。



思えば、こうして顔を合わせるのも高校卒業以来だから12年ぶり。

彼があまり変わらない一方で、私は老けたとか思われてないかな……。

なんて、そんなこと気にしてどうするんだか。



いろいろ考えているうちに、静は電話を終えたらしく、車を出す。