ロイの手が私の頬を優しく包み込んだ。

その安心させるような仕草が私の心を温かくしてくれる。


「一度だけ婚約破棄をした。」

「うん。」


ロイが静かに話し始めた。


「謂わば政略結婚だ。お互いの事業繁栄の為に用意された結婚だった。」

「………。」

「私も納得していたが、ある日、婚約者となった女性から聞いてしまったんだ。」


ロイの瞳が伏せられる。

過去を思い出しているのだろうか。

眉間に皺が寄り始めたのだ。


「女達からの羨望の眼差し、金を気にせず遊び放題。そして………若い男とも遊び放題だと。」

「………。」

「確かに政略結婚だが、そんな女とは結婚も一緒に暮らすのも無理だと思った。」

「………。」

「だから婚約は破棄させて貰った。」


苦悶の表情を見せるロイは心にトラウマを抱えた筈だ。