「この場所が一番近いんだ。」


ぽつりとユートが呟いた。


「近い?」

「あの現象が起こる場所に。」

「………雷。」


確かに近いかもしれない。

激しい雷、それに背の高い街路樹もある。

私の記憶が呼び起こされたのは………この場所で凄いスコールが発生したからだ。

雷が街路樹に落ちて………

そう、ホテル前にある街路樹に。


「私も見た。凄い雷が街路樹に落ちて。」

「俺も見たことあるんだ。やっぱり間違ってないかもしれない。」


何かを確信するユート。

きっと日本に帰れる場所はホテル前の街路樹の近く?

ユートは決めているように思う。


「今の時期が一番スコールが発生しやすい。」

「へぇー、そうなんだね。」

「大気の状態が一番不安定になるんだ。」

「ユートはそれで此処に?」


トリップの可能性が高い場所に来て様子を伺っていたのかな?

でもエミリー・ジョーンズのネタを掴む為に張り込んでるとも言っていたような。


「今、ここにいるのは偶然。ここが一番トリップ出来そうな場所だと分かってからは毎年来てる。当たり前だけど。」

「エミリーを追い掛けてきたのは事実?」

「そう、仕事だからね。奇跡でも起きない限り、俺が日本に帰るのは無理だな。」


少し諦めかけているように見える。

何年も挑戦してきたのだろうか。

挑戦………?

失敗できない挑戦じゃない?

重大な事実に気付いた。


「でも雷だよ?万が一にも間違ってたら。」

「死ぬね、俺。」

「そんな賭け………。」


間違ってたら死ぬだろう。

雷が落ちて助かるなんて奇跡だ。

奇跡?


「俺は奇跡を信じる。もう一度会いたいから。」

「奇跡。」

「そう、奇跡。」


ユートの意思は固そうだ。