「無理だな」
「は?」
無理なのはわかっていたけれど、雪夜に言われると腹が立つ。
そのため言い返そうと思い、口を開こうとしたその時───
「だってお前には俺がいるから」
わけのわからないことを耳元で甘く囁いてきた。
誘うような言い方に、肩がビクッと跳ねる。
「なに、言って…」
少し危機感を覚えた私は雪夜から離れた。
視界に映ったのは、神田という人物と同じ格好をしている雪夜の姿。
さっきは心に余裕がなかったから気づかなかったけれど、和服姿の雪夜はどこか新鮮に思えて、少し……いや、かなり色っぽく感じてかっこいいと思ってしまった。
「ほら、怪我人は大人しくしてろ」
「別にこれくらい平気、だし…」
「早く治さないと俺を殺れないぞ」
そう言って雪夜は私の腰に手をまわし、優しく抱き寄せてくる。
ただそれだけなのに、おかしい。
ふたりの距離がゼロになり、なんだか胸が熱くなる。
別に体を重ね合わせてるわけではないというのに、どうしてだろう。



