「何処へ行くのですか?」
あくまで冷静に、落ち着いた口調で話すよう心がける。
決して彼に飲まれてはいないと、欲に負けていないということをアピールするためだ。
「部屋に行かないと試せないだろ?」
エレベーターに乗り込むなり、私の肩から手を離す彼は余裕の笑みを浮かべる。
「無難ですね」
「なら監視カメラの下でやるのが趣味なのか?」
「それは絶対に嫌ですね」
彼との行為が映像に残るだなんて、考えただけでも吐き気がする。
互いが一歩も譲らない。
心の余裕を崩さない。
目の前の男は獲物、今日私に狩られる相手。
連れてこられたのは最上階のスイートルーム。
さすがにそれは予想外で驚いてしまう。
もしかしてこの男、容姿だけでなくお金も相当持っている?
「何、部屋に来て萎縮したのか?」
「……いいえ、まったく」
バカにしたような笑いに腹が立ちながらも、笑顔を保つ。
相手が油断したその瞬間、まずは相手の“声”を殺す。
集中して狙いを定めるんだ。
焦りは禁物。
そう何度も心で繰り返していたその時───



