危険な愛に侵されて。




目の前には和服姿の男がひとり立っていて、私のほうをじっと見つめている。

男の見た目は綺麗で優しい顔をしているはずなのに、“この男は危険だ”と本能が言っていた。



ナイフを持つ手が震え、嫌な汗も流れる。


「危ない物、持っているね」


ゾクッと全身が震えた。

ナイフを前にして男は驚くことも怯むこともなく、薄笑いを浮かべていたから。


むしろ楽しそうにも見える、その笑み。


何、この感じ。
こんなにも人を怖いと思ったことはない。


目の前の男から圧を感じた。
それだけでなく“命の危険”すら感じられて。


「無視、かな」

感情の読めない声に表情が、より一層彼の怖さを引き立てていた。


「……だ、れ…」

必死でナイフを持つ手の震えを抑えようとしていたその時───



「あ、神田(かんだ)くんいた…!」


彼の後ろからかわいらしい声が聞こえてきて。

その声に反応した彼が振り向くと、その女の子の姿が私にも捉えられた。


例えれば小動物のような小柄で、かわいい女の子は彼に駆け寄っている。

どうしてこの怖い男に怯まずにいられるんだ。


そう不思議に思いながらも、ふたりを眺めていると───


「未央(みお)、ごめんね」


なんということだろうか。

一瞬にして目の前の男から“冷たさ”が消え、圧もなくなり。


見た目に合った優しい雰囲気を醸し出し、未央と呼んだ女の子をぎゅっと抱きしめた。