「じゃあ私にも涼雅の全部、ちょうだい。
過去の辛いことも楽しかったことも全部」

「何かっこつけたこと言ってんの」
「私がいないと寝れないくせによく言う」

「うるせぇ。関係ねぇよ」


ふたり視線を絡ませ、そして笑い合う。
幸せいっぱいの笑み。

彼がいれば本当に全部忘れることができそうだ。


「でもこれからは不眠症で悩まされる心配はねぇかも」

「私がいるから?」
「静音がいたら、何でも乗り越えられそう」


見た目がどれだけ大人びていようと。
大人がするようなことをしていたとしても。

私たちはまだまだ子供。


心は脆く、すぐ砕け散ってしまいそうなほど。
弱い弱い人間。

ひとりでは生きていけない。


もう今の私には彼なしで生きていけないかもしれない、なんて。



「……ん」

不意打ちのキス。
少しきつめの深い深いキス。


このキスは驚くほどに甘く、そして特別に思えた。



「静音、今日はいつもよりたくさん啼かせるかもしれねぇ」

今の彼はまるで獣に見えた。
理性の欠いた危険な獣。


「うん、いいよ。
涼雅で私の全部を侵してよ」

ただそんな彼を求めてしまう私もまた、理性を保てていないのかもしれない。


甘い声が部屋に響く、とろけるような時間。
酔いしれていた。

彼に溺れていた。



やっと心まで繋がれたような気がして、幸せいっぱいで。

これから先、ずっと幸せな日々を送れる───


そう信じていたけれど。
このような日々が崩れ始めたのはすぐだった。