ピタッと雪夜の足が止まる。



「まさか御園さん連れて逃げるとかないよね?」


まるで脅すような口調。
途端に恐怖心が駆り立てられる。

秋崎さんに、それほど恨みがあるのだろうか。


わからないけれど彼に逆らえないのはわかった。



「んなわけねぇよ。ちゃんと宮木に家まで送ってもらう。それなら安心できるだろ?」

「……そっか。それなら大丈夫だね」


“宮木さん”の名前を出せば、すぐ雰囲気を和らげた神田。



「万が一裏切るようなことがあったら涼雅でも許さないよ」


最後まで揺るがない声、変わらないトーン。
本気で言っているということはわかった。

雪夜にも容赦なく脅す神田に、若頭としての威厳を感じた。



「信用してねぇんだな」

「信用してるからこそだよ。御園さんを選んで神田組を裏切るような行為はしてほしくないからね」


にこりと柔らかな笑みを浮かべる神田はやはり恐ろしい存在である。

けれど雪夜は一切ひるむことなく小さな笑みを漏らした後、また私の腕を引いて歩き始めた。