「悪いな、さんきゅ」
心のこもっていないお礼を言われてもまったく嬉しくない。
今すぐ視界から消えて欲しいと思う中、彼は私と机をくっつけてしまう。
グッと近くなる距離に、あの日のことが思い出された。
無理矢理なくせに、弱いところばかり探り当てて触れてくる手。
その手の動きに合わせてビクつく体。
驚くほどに経験豊富な上に、手慣れている彼───
あの日の私は私ではなかった。
あそこまで調子を狂わされ、理性を奪われたのは初めてのことで。
いつもは必ず目的を忘れることなく、むしろ私が積極的に男を感じさせにいっていたのに。
そして油断をついて、目的を達成するのだ。
そのため今回は彼の命を奪えると思ったというのに。
彼は私を感じさせることばかりしてきて、自分は満たそうとしない。
最後にはもちろん満たすのかもしれないけれど、その時にはもう私にやり返す気力なんてなかった。
「じゃあ1時間目も頑張るように」
担任の先生のひと言ではっと我に返る。
いけない、何あの日のことを思い出しているんだ。



