容易に触れてはいけない過去な気がして、私は口を閉じた。


ちらっと雪夜に視線を向ければ、相変わらず気持ち良さそうに眠っていて。

指を絡めるようにして手を重ねると、彼はぎゅっと握ってきた。


「……かわいい」


本当に子供。
見た目はこんなにも大人びているくせに。

考え方も大人のくせに。


彼はまだまだ子供なのだ。
高校生よりもずっと幼い子供。


「幼い子供のようですね」


バックミラーに視線をやる宮木さんは、おそらく雪夜の寝顔を見たのだろう。

優しい顔をして笑っているように思えた。



「普段は生意気な強引野郎ですが…いつもこんなかわいかったらいいのに」


頬を突っついてやると、ピクッとまぶたが動く。

起こしたかもしれないと少し不安に思ったけれど、またすぐ小さな寝息を立てて眠る雪夜。


起きる気配はなさそうで。



思わずこぼれる笑み。
なんだか雪夜の“弱さ”を見ているようにすら思う。


『おとちゃんっ…』

ふと脳裏に浮かんだのは、私に走り寄るすずくんの姿。


何かに怯えることが多い彼は、私とふたりの時だけに見せるかわいい表情があって。


「……似て、る」

そんな彼と雪夜はどこか重なる部分があったけれど、“名前が違う”と思い込み、その考えは急いでかき消した。