「じゃあまた放課後。授業寝るなよ〜。解散っ」
「ありがとうございました!!」

全体集合後、顧問の言葉を後に挨拶をして朝練を終えた。

ふぅ、とひと息ついて首に下げたタオルで額の汗を拭い、ペットボトルの水を飲もうとした時。
「よお、そら」
誰かが後ろから勢いよく首元に腕を回してきた。
またコイツは…
「よおじゃねーよ時雨。水飲もうとしてる時に来んじゃねぇ、死ぬわ」
とはいえこんなことでさえ日常茶飯事、もうここまで来たら俺が注意するべきなのだろうか…。
「おぉ、ごめんごめん。そんな怒らんといてや」
「ったく…エセ関西弁が」
自分でもわかるくらいの悪い顔をして見せた。
毎度のことながら、時雨の反応が楽しくてあげた口角がなかなか下がらない。
「はぁ?!なんやてお前、今ボソッと言うたのしっかり聞こえたで!」
顔を赤くして必死に訴えるのを見て笑わぬよう、せめてこれ以上口角が上がらないようにとこっちも必死にキープ。
「おぉおぉ、顔赤いぞ」
「こ、このっ…!」
まだ何か言いたげなコイツ、時雨の産まれは滋賀県、育ちは関東。
それも滋賀にいたのはだいたいオムツが取れたか取れてないかくらいの3歳まで。
両親はバリバリ標準語で、関西弁を使うのはせいぜいおばあちゃんくらい。特別おばあちゃんっ子というわけではないだろうし、家族がいる時に俺らが遊びに行くと、時雨は関西弁を使わない。
ほらやっぱり……そういうことですよねぇ?
「俺は正真正銘関西人、誰がエセやねん!」
「はいはーい」
必死な訴えを軽く交わして右手をヒラヒラさせながら時雨に背中を向けて歩いた。

ほんと、面白いやつだ。

自分の荷物を前に、今度こそ水を飲んで乾いた喉を潤した。
「あ〜、生き返る…」
ペットボトルをカバンに入れて、重たい荷物を肩にかけて教室は向かった。

あぁ、今日もまた長い1日が始まる。