毎朝9時半、僕は病室を出てここに来ている。
いつもと同じベンチに腰掛けて、
いつもと同じように風を感じて、
あぁ今日も寒いなぁなんて。

でも今日は少し...いや、少しどころじゃない、
確実にいつもと違うことがあった。

「隣に座っても、いいですか。」

誰かが、僕に話しかけてきた。
声質的に多分女性。
それも、僕と同い年くらいだろうか。
まぁこれ僕専用ベンチじゃないし、
断る理由も特にないので、
「どうぞ。」
と、彼女がいるであろう方向に微笑んだ。
すると彼女はすとんと僕の横に座る。
誰かが横にいるという感覚がとても新鮮で、なんだか気分が良い。

そんなことを思いながら2、3分。
彼女がまた話しかけてきた。
「私は、ヒナツと言います。高校2年生です。」
ヒナツ...。
驚くべきことに、彼女は僕と同い年だった。
じゃあ、タメでいいか、なんて。
ほんとは、ちょっとタメ口で話してみたかっただけだけど。
「...そう、ヒナツ。僕は奏。よろしくね。」
彼女...ヒナツの声は、リンと鳴る鈴の音のような美しい声だと思った。一目惚れならぬ、一耳惚れをしてしまったかもしれない。
だからかはわからないけれど、もう少しだけ、話していたいと思った。

「ねぇ、ヒナツはどうして僕に話しかけてきたの?何か用事でもあった?」
慣れないタメ口で尋ねてみる。
「...私、病院から抜け出してきたんです。
その、少し...息抜きで。」
あー、なるほど。
僕と一緒か。

「良かったら聴いてもらえませんか、私の話。」

え?話...?

おかしなやつだなぁと思うと、なんだか笑いがこみ上げてきて、ふふ、と短く笑った。
「僕は構わないよ。ぜひ、聞かせてください、あなたのこと。」

それから毎日、決まった時間になるといつもヒナツが現れた。ヒナツは、初めて会ったあの日みたいにちょこんと僕の隣に座って、いろんな話をしてくれた。その時間がとてもかけがえなくて、
もしかしたら、これが世に言う恋の感情なのだろうかと直感した。