ウルフガングが地下からの隠し通路から外に出た瞬間。

ひんやりと冷たいものが頬に落ち、刹那のもとに消え去ったのを感じた。




(雪か……。このロンドンに春の雪とは。これは奇跡か…。エマ、君にも……奇跡よ、舞い降りてくれ……!)



舞い落ちる粉雪の中。

ウルフガングは、人間が荒波のように押し寄せる渦の中へと。

消えていく雪の感触を確かめるように。

ゆっくりと、歩を進める。




それは、この世で最も美しい瞬間の一つだったと。

彼はヴァンパイアである自らを誇るように、雪を愛でながら歩く。



エマを愛していた。

自らの運命に、愛する者を巻き込んだヴァンパイアである自分を疎ましくも思いながら、同時に愛のために散ることができる自分に喜びを感じる。

「愛とは、矛盾に満ちている……」

苦く小さな微笑を零しながらつぶやいた独り言は。



「いたぞ!ヴァンパイアだ―――!!」




人間たちの怒号によって、かき消された。