思い出していくうちに、心臓の鼓動がどんどんと速くなるのを感じ吐息まじりのため息をついた。

首を噛まれて、血を吸われ、キスもされたはずなのに………!!

その形跡は、どこにもなかった。

あれは………夢?

不思議な感覚だった。

確かに自分のようだった気もするのに、自分じゃない誰かがわたしの中にいた、とも思う。

そして……男はわたしを「エマ」と呼んだ。

「わたし、ヴァンパイアキスでおかしくなっちゃったのかな…。やっぱり夢、だよね…?」

ヴァンパイアの残り香を強烈なほどに肌や唇に感じるのに……。

不思議な現実感とふわふわした幻想的な感覚の狭間で、わたしはどちらにも行けず岸辺を彷徨う貝殻のように。

甘いキスに酔う感覚だけが、わたしの体を震えさせていた。



ピルルルルル…………!

こんな場面で突然わたしの携帯が鳴り、現実に引き戻されるように携帯を手にとった。

「はい……」

半ば意識のないような感覚で電話にでると、

「カレン!見つけたわよ~!銀髪の男!!」

「…ほ、ふえ!?」

サラのタイミングがいいのか悪いのかわからない絶妙な電話に。

この親友だけは、相も変わらない、と嘆きまじりのため息をついた。