2108年、4月。

ロンドン郊外。


月が白く円を描き始めたその時刻。

白い蕾をつけた花々が咲き乱れる草原の中で。

一人の20歳ほどの容姿の少年が、金糸の髪に舞い降りた粉雪にはたと足を止め、空を見上げた。

(春の雪か。……なんだろう?なぜか、懐かしい…)

何かを思い出そうと雪を見つめていたその時、

後ろで草を踏みしめる足音に、少年はふと、振り返った。

金糸の髪に、大きなバイオレットの瞳。

愛らしく、丸みを帯びた顔の20代ほどに見える女性が、少年の後ろに立っていた。

彼女は少年をじっと見つめると、その大きな瞳いっぱいに涙を浮かべ、微笑んだ。

「あの…どこかで、会ったかな?」

懐かしげに微笑む女性に首を傾げながら、問う。

彼女は一瞬寂しげに微笑むと、すぐに太陽のような笑顔で言った。

「4月の雪が奇跡って……ほんとね。地上に出てすぐ、あなたに会えるなんて」

彼女は少年の頬にキスをし、マリアのように優しく微笑むと、踵を返し歩き出した。

「待って!………君…は?」

慌てて声をかけた少年を振り返った彼女の白のワンピースが風に揺れる。

「……マリアよ。もう一人の地上の天使を探しているの。その天使はきっと、この地上のどこかで、わたしを待ってる」

(そう……100年間、ずっと………)

彼女は最後に少年に艶やかな大人の女性の微笑みを見せると、手を振り、草原を立ち去っていく。

白のワンピースを翻し歩いていく女性の後姿をじっと見つめる少年の胸に、甘く切ない想いが懐かしく過ぎる。