ロンドン郊外。

夢で見たヴァンパイアの巣窟「ガイア」を隠すように存在していた古い酒場のあったその場所に、わたしとデュオは足を踏み入れた。

100年前、ブルースが客を招きいれ、ウルフが人間の世界の情報を探る絶好の場所だったその酒場は、今はもう存在していなかった。

夜風に青々とした草原が波打つように揺れる中、デュオが探るように歩を進める。

大きな屋敷一軒くらいは立ちそうな空き地と化したその場所。

「この辺りのはずだ…私たちの『ガイア』は…」

ゆっくりと歩き続けていたデュオが、ハタと立ち止まる。

「デュオ…そこなの?」

目を細め、片膝をついて地面に触れたデュオのバイオレットの瞳がゆっくりと見開かれた。

デュオはそのまま草むらの中に両手を入れ、何かを一気に引き上げる。

……ガコン…!!

重々しい音が夜露に濡れる草を揺らす。

デュオが引き上げたその硬い石でできた扉は物言わぬ墓石のように音を立てて草原に沈んだ。

「……懐かしい…匂いだ」

微かに懐かしむように頬を緩めるデュオの横からわたしはその入り口を覗き込んだ。

人ひとりがやっと通れそうなその穴から、血とエクスタシーとバラの香りが漂う。

不思議と、初めて来たのに、懐かしい……。

「…変ね。なぜか、懐かしいの」

デュオが、手を差し伸べ、言う。

「ヴァンパイアの血がそうさせるんだ。ここは、ヴァンパイアの生まれた地だから……」

デュオに手を引かれ、懐かしいその場所に足を踏み入れた。