その時。

ズルッズルッという何かを引きずる音が徐々に闇の中から近づいてきた。

ゴトンという音を最後にそれは止まった。

エマと、わたしたちの間に立ちはだかるように置かれた棺おけ。

漆黒のそれを見下ろしながら、運んできた男は金髪を神経質に撫で付けるようなしぐさをしてニヤリと嗤った。

「とうとう、こいつを甦らせる時がきた…」

以前とは豹変してしまったその表情。

でも、そのしぐさ、その顔に確かに見覚えがあった。

「……理事長!!」

サラの父親…キングストン総合病院の理事長だ!

「やめ…て、理事長!!今、彼を甦らせてはだめ!!」

ウルフが……ウルフが……死んでしまう!!

シエルが一歩前へ進み出る。

「やめろ!!」

彼の額にバイオレットの三日月が光ったと同時に、突き出した右手からバイオレットに輝き渦を巻く光が放たれた。

光は、今まさに棺おけを開けようとしている理事長の両腕を捕らえたかと思われた。

だが、理事長は光に腕を捕らわれつつも棺おけを開ける動きをやめない。

こちらへ引こうとする光に抗い、腕が変な形に曲がりながらも、徐々にそのフタを開けていく。

「あの腕…骨折してるわ!!」

表情を変えずにフタを引き上げ続ける理事長。

「くく…その男は決して私の命令に逆らわない。何をしても無駄だ。止めさせるなら、その男を殺すしかない」

エマの隣で、オズワルドが心底楽しそうに嗤う。

「だめだ、シエル。攻撃しても彼は決して止めない…」

デュオが苦しげに唇を噛んだその時。

ゴトンという音。

棺おけから立ち込める冷気。

オズワルドと理事長の高らかな嗤い声とともに、

そのヴァンパイアは甦った。

オズワルドはエマの心臓に剣を突き立て、喉を鳴らす。

「この時を、100年待ち焦がれたよ。……伝説のヴァンパイア、ウルフガング様……くっくっく…!」