「サラ、ファーストキスは恋する人とはできないものなんだね……」

わたしはキスマークの部分をストールで隠すと、無理に笑顔をつくってわたしよりかなり背の高いサラを見上げた。

「当たり前じゃない。恋はキスから始まるのよ!」

サラはそんなこと当たり前というように、わたしの頭にポンと手を乗せるとワルツが楽しげに演奏されている別荘の中へとわたしを誘導した。




人間の恋は、キスから始まる……。

じゃあ、ヴァンパイアの恋は………?



苦笑まじりに、夜空を見上げた。

わたしのファーストキスの全てを見ていたはずの月は、何も見ていなかったというように灰色の雲に身を隠していた。

ママの美しかった姿が浮かぶ。


ママ………。

わたしは、ヴァンパイアなの……!?

ママ、教えてよ…!

『あなたは、人間でもヴァンパイアでも、ない』

小さい頃、わたしにそう言ったママの声が思い出されて、わたしの胸の中に空しく響く。