これって恋じゃないのかな……。

不安な想いがどんどん強くなり、わたしの体はだんだん不安定に揺れ始めた。

また人ごみに酔う感覚が少し戻ってきて、思わずかずちゃんの足を踏み転びそうになった。

「花恋、大丈夫?」

「う…ん、大丈夫。でもちょっと疲れたみたいで、休んでくるね」

「控え室まで連れて行くよ」

「あ、ううん、大丈夫!主役が二人も抜けちゃまずいでしょ。一人で行けるから」

わたしはそう言って心配げな顔のかずちゃんを振り切るように会場を出た。

なんとなく一人になりたくて堪らなかった。

このままじゃ気持ちが切れちゃいそうで……。

廊下に出てしばらく歩き、控え室へと続く角を曲がった瞬間。

わたしの心臓は跳ね上がるほどにドキンと音をたてた。

腕を組み、壁に寄りかかるようにしてこちらを振り返った顔に美しい漆黒の髪が降りかかる。

彼は少し厳しい目つきでわたしを見つめたまま、その瞳をわたしから逸らさない。

わたしはどうしようもなくそのバイオレットの瞳に惹かれるのを感じながら、

「デュオ、日本の企業で何をしようとしているの?黒髪に染めたのはそのため?」

と、問いかけていた。

ほんとは、聞きたいことは他にあった。

『わたしのこと、どう思っているの?』

でもその質問の答えはとても怖くて聞けそうになかった。