1908年4月。

イギリス・ロンドン。




「ヴァンパイアめ!この辺りにいるはずだ!探せ!!」

人間どものおぞましい怒号が、この地下牢にも届き始めた。

彼らが我々を追い詰めるのも、もう間近だろう。


ウルフガングは、銀色の腰まである髪を首の後ろでまとめ、颯爽と立ち上がった。

そして、赤に程近い紫色の瞳で、ある一点を見やる。

窓一つない薄暗い地下牢にあるのは、上蓋に金色の十字架が埋め込められている漆黒の棺おけが一つ。

そして、その脇に立っている金髪の齢10歳ほどの少年。

少年はウルフガングのバイオレットの瞳がさらに色濃くオーラをまとったのを認めると。

「泣いておられるのですか?」と小首をかしげる。

ウルフガングは瞳を細めると、その甘美な唇から雪のように白い牙を零して微笑んだ。


「お前は、ヴァンパイアが泣いているのを見たことがあるのか?」


少年もまた、アイスブルーの瞳を細めて笑う。


「いいえ、でもこのカルロにはウルフ様の瞳に、確かに涙が見えております」