その夜、わたしは奇跡の瞬間に立ち会った。

妊娠してから100年間、エマの体内にいたという子の出産の瞬間に……。

カルロは10歳の姿から想像もできないほど、手際が良かった。

既に出産の準備をしていたらしく、どうしたらいいかわからなくてオロオロしているわたしをも勇気づけるようにカルロは迅速に行動した。

その姿を見て、カルロはほんとうに100歳を超えているんだなんて改めて感じたりしながら、わたしはほとんど何もできずひたすらエマの手を握っていた。

エマは痛みに耐えながら、時折、ウルフの名を呼んだ。

ウルフの名を呼びながら、彼女はまるで再生するかのようにその瞳の輝きを増していった。

そうして一晩、ウルフの名を呼び続けたエマに、その命を授かってから100年後の待望の対面が果たされた。



翌朝、ロンドン郊外のとある地下牢にて。

「エマ様、おめでとうございます。ご子息のご誕生ですよ」

カルロがその赤ん坊を手に抱き取り、ベッドで寝ているエマの傍らにそっと差し出した。

エマは汗でびっしょりになった顔でふぅっと一息吐くようにほっとした笑顔を見せると、その子の頬に触れた。

「名前は決めてあるの。ずっと地下牢でわたしとともに眠っていたこの子には美しい空を見て欲しいという願いを込めて」

エマは母親らしい慈しむような笑顔を見せると、

「シエル、生まれてくれてありがとう」

と、息子の頬にキスをした。

「シエル…『空』という意味ですね」

カルロは嬉しそうに微笑んで言った。

「シエル様、100年間ずっとご誕生をお待ち申しておりました」