バラの香りがつんとわたしの鼻をかすめた。

棺おけの中には、一面にバイオレットのバラが散りばめられていた。

そしてその中央にまるでマリアのように微笑んでいる雪のような肌の金糸の美女が眠っていた。

エマは長いまつげをその白い肌に落としながら、その桃色の唇を柔らかにほころばせ、しっとりとした微笑を見るものに与えていた。

「エマ……」

「ああ、やはりエマ様はバイオレットがお好きなようですね。いつも赤いバラを棺おけに入れておくのですが、次の日にはそのお色をバイオレットに変えてしまうのです」

カルロは棺おけの中のバイオレットのバラを一輪取り出すと、優しく微笑んだ。

エマの腕はそのふくよかに膨らんだ腹部に添えられていて、子を大切に護るように眠っていた。

「カレン、あなたのお母様を強く想ってください。娘であるあなたが母を呼ばれれば、エマ様の中におられるお母様の魂が呼び覚まされ、同時にエマ様も甦るかもしれません」

「ママを……!」

わたしはカルロを見てまたエマを見ると、その柔らな白い肌が美しいエマの左手を両手で握り締めた。

「……ママ、聞こえる?わたしよ。花恋よ。ママよく言ってたよね?素敵なワルツを踊れるようになりなさいって。ごめんね、ママ。わたし、ママが亡くなってからショックでずっと踊れていないの。……ママ!わたし思い出したのよ。ママが言っていたこと。わたしが人間でもヴァンパイアでもないって。わたしの中に別の何かがいるのを知ることになるって……。ママ、教えて!わたしもママみたいに短命なの?20歳で愛してもいない人と結婚することが、ママの願いなの!?」