イギリスの巨大なコンツェルンのお嬢様、お坊ちゃまが集まる金持ちパーティーではあるが、仮面をつけるという特性上、お互いの素性が知られることはないし、素性をしゃべってはいけないという規則までついている金持ち同士のお遊びパーティなのだ。

そんな素性を知らないもの同士であるからこそ、ほんものの恋が生まれるチャンスもある、というのがサラからのお達し。

それにもうすぐ日本に帰国する身であるわたしには、素性がわからない方があとあと尾を引かないだろうというのもサラの心配りだった。

ほんとに何から何まで……。

親友のこの気迫と過剰なまでの親切心はどこからくるのかと、さっきから何度も考えては堂々巡りを繰り返していた。

「あ、来た来た!」

サラが暗闇から現れたばかでかい黒のベンツに大きく右手を振る。

ベンツはわたしたちの前で停車すると、中から出てきたタキシードを着た紳士然とした男性がドアを開けわたしたちを中へと誘導した。

ベンツは初めてではないけれど、日本ではなるべく普通にしていたいわたしはよく乗るのを拒んでいたので、かなり久しぶりだった。

「サラ、今夜のパーティーの主催者は誰なの?」

ビックな金持ちパーティということくらいしか聞いていなかったことを思い出し、慌てて質問する。

「日本でトップ3に入るという大企業だそうよ。最近イギリスにも進出してきたようね。なんでもその企業の日本人の社長夫婦がイギリス人の双子を養子にしたそうなの。今夜もきっとどこかにその双子は隠れているでしょうね」