「その女性は、今いらっしゃるんですか?」

僕が訊ねると、若者は首を横に振る。

「今はまだいないみたいですね」

若者曰く、その女性のダンスには多くの人が足を止めてしまうほどのものらしい。それまではみんなの舞台だったのに、その女性が来るとその人だけの舞台に変化するそうだ。

その話を聞いて、僕の中に初めて人間に対する興味が生まれる。その刹那、空気が一瞬で変化したことに気づいた。

「あの子だ!」

若者が小さく叫ぶ。先ほどまで踊っていた多くの人が足を止め、踊る男女を見つめた。

男性は、顔を仮面で隠している。とてもリードがうまい。着ているスーツは、農民たちが着ているものよりはるかに高価なものだ。

女性は、赤いシンプルなドレスを着ている。ブラウンの長い髪が、夜風に揺れた。

二人にだけ、今、スポットライトが当たっている。この世界は、今は二人だけのものだと誰かが言っているようだった。

女性の美しさに、僕は見とれていた。その姿を独り占めしたい。その身が朽ちるまで、僕とともにいてほしい。

僕は、美しい花を見つけた。