グラスに入っているのは、真っ赤なワイン。まるで人間の血のような赤。

人間の血は、当たりとハズレがある。ハズレだと表現できないようなマズさだが、当たりだとほどよい甘さや辛さが口に広がる。当たりだった時の血の味を思い出して、僕は舌舐めずりをする。またあの味を舌で楽しみたくなってきた。

吸血鬼は、人間の食べるものなどを口にすることはできない。そのため、僕はグラスを傾けて飲むふりをした。若者たちがすでに酔っていてよかった。

若者たちは、つまみを食べながらグラスを傾け続ける。そして、楽しげに会話をしていた。

「××の店の店員が美人だった」

「大きな仕事が入ってきた」

「今度、いとこに子どもが生まれる」

そんなくだらない話をしながら、僕にも会話を振ってくる。どうやら、この村の人はよそ者にも気さくなようだ。

「この村の人たちはとても親切ですね。おかげで何度も助かりました」

僕は相手の機嫌をとるために嘘をついた。何百年と生きていると、嘘をつくことにも、罪を犯すことにも、何も抵抗を感じなくなるのだ。自分にとってプラスになればそれでいい。