「おばあさん、そろそろ始めますね。」
「えぇ……お願いします。」
しずくはおばあさんに声を掛けてからキッズスペースの端に設置してあった小さな椅子に座った。
いつもおばあさんが座る場所に、知らない人が座っているのだ。子ども達は戸惑ったり、後ろに座るおばあさんを見たりしていた。
けれど、しずくは焦らずに、笑顔で「みなさん、こんにちは。」と、話しをした。
保育園に来たばかりの子ども達と同じように接すればいいのだ。不安と、少しの楽しみ。これから何が始まるのだろうかと、ドキドキしている気持ちもあるだろう。そう思ったのだ。
「今日はおばあさんのかわりに来ました。普段は保育園の先生をしています。よろしくお願いします。」
「先生?」
「ねーねー、おばあさんは?」
この場所に慣れている大きい子ども達はすぐに声を掛けてきてくれた。それにしずくは安堵しながら返事をした。
「うん。先生だよ。今日はねおばあさんが咳がゴホゴホでておしゃべりが出来ないんだって。みんなも、咳が出ると苦しいでしょ?だから、おばあちゃんに早く元気になってねって言ってあげてね。」
「うん!おばあちゃん、早く元気になってねー!」
「早く治してねー。」
子ども達は次々に後ろを向いて、優しくおばあさんに声を掛けていた。
すると、おばあさんは嬉しそうに目を細めて、「あらあらー。ありがとう。頑張るわねー。」と、返事をしてくれた。
「はい。みんな、ありがとう!今日、お姉さんは絵本を2冊準備しました。どれも楽しい絵本だから、しっかり座ってみんなで仲良く見ましょうね。」
そう言うと、しずくは絵本をみんなが見える高さまで片手で持ち上げ、タイトルを読み上げて絵本を捲った。