しずくは、恥ずかしくなりながら水色の手を、擦った。すると、もちろん反対の手にもその色が移ってしまう。
「手、洗わないと………。」
そう呟いたが、騒がしい雑踏にその声はすぐに消されてしまう。
恥ずかしさを感じたけれど、それもすぐに虚しさに変わる。
白の可愛い後輩。
綺麗なピンク色の髪は手入れが施されており、艶々で綺麗にセットされていた。そして、肌は白く化粧など落ちているはずもなかった。ミニスカートからのぞく細い脚と、ヒールの高いロングブーツ。どこをとっても女らしい心花。
それに対して、自分はどうだろうか。
髪はぐじゃぐじゃで、化粧も子ども達と外で遊んだため落ちてきている。服装も体調を崩さないようにと、防寒優先にしている。
ビニール袋を沢山持ってヨロヨロと歩くしずくと、カツカツとヒールを鳴らしながら颯爽と歩く心花。
そして、自分より白の現状を知っている彼女。
「私、何してるんだろう…………。」
しずくは店に入らず、逃げるように明るく光る街から離れた。
涙が溢れそうになるのを必死で我慢しながら、家まで歩いた。
ガサガサとビニール袋が揺れる音がする。
早足で歩いたせいか、息が荒くなり、しずくの吐く息がどんどん白くなっていく。
部屋に着いたしずくは、玄関に荷物を置き、電気をつけずにそのままベットへ倒れ込んだ。
「…………っっ、何で、私には何も言ってくれないの………白…………頼りないから…………。白のバカっっ………。」
我慢していた涙が溢れ出て、布団を濡らす。
嗚咽混じりの声が、静かな部屋に響く。
「…………バカは………私、か…………。」
涙と共に出た言葉は、とても弱々しかった。
けれど、自分の言葉にしずくは悲しくなり、また大粒の涙が溢れ落ち、頬に流れる。
それを拭いて、「泣かないで。」と言ってくれる彼の言葉と体温を、今は思い出す事も出来なかった。



