「それで、僕の所に来たんだねー。」
 「………本当には来たくなかったですが。」
 「相変わらず、つれないなー!白くんは。」


 白の恩師であり大学教授のキタシタイチは、大きく口を開けて豪快に笑った。それを見て、白ははぁーとため息をついた。

 この日、白が訪れたのは卒業した母校だった。その大学でお世話になった教授であり有名絵本作家のキタシタイチの研究室に来ていた。
 相変わらず、物が散乱している部屋だった。白に出されたコーヒーは、いつもと同じようにテーブルの上に重なった紙類の山の上に置かれていた。


 「さすが、白先輩!すごいです!」
 「どんなゲームだろう。楽しみです!」


 そして、たまたま研修室に居た白の後輩である心花と青葉も話に混ざっている。白がキノシタイチに話しをしている所に勝手に飲み物を出してきて、ソファに座り混ざり始めたのだが、2人が1番盛り上がっていた。


 『フェアリーワールドストーリズ』の担当者から白がキャラクターデザインをする事になったのを、バラさないよう口止めされていた。ただ、白が1人だけ伝えたい人がいる話すと絶対に口外しない事を条件に、教えていいと言われたのだ。もちろん、伝えたい人とはしずくだ。
 そのため、ここに居る3人にも、どの、ゲームかは伝えてはいなかった。
 それでも、後輩の2人が喜んでくれるのは、素直に嬉しかった。


 「君がスランプなんて、珍しいね。難しい題材なのかな?」
 「いえ……初めての系統の仕事なので、まだ試行錯誤してる状態なのかなって思ってます。クライアントが自分にどんな絵を求めているのか掴めなくて。描いても描いても、全部ダメみたいで………。」
 「白先輩…………。」


 心花は、心配そうに白の話を聞いていた。白はそれを見て苦笑しながらも、「大丈夫だ。」と、心花に言った。彼女は「……はい。」と、ちいさな声で言うだけで、安心はしていないようだ。
 同じクリエーターとして、良いものを産み出せない時の苦しみを知っているからこそ、気持ちをわかってくれるのだろう。