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 白は、焦っていた。
 
 『フェアリーワールドストーリーズ』のキャラクターデザインの仕事が来てからしばらく経った。
 何度かラフ画を担当に見せてはいるが、どれもいい返事は帰ってこなかった。
 「似たようなキャラクターが他にいる。さつきさんらしさを出してもらえればいいですよ。」と、言われるのだ。

 求められているのは、淡い色合いの優しげのある作風だと思い、そのようにやっている。
 けれど、どれも違うとの返事だった。

 もう何体のキャラクターを描いただろうか。
 白の作業机には、沢山の紙が散乱していた。


 今日も朝から作業に没頭しており、気づくと部屋は暗くなっていた。
 


 「………もう夜なのか………絵本のストーリーも考えないといけないな。」


 ため息と共にそう呟いて、ゆっくりと立ち上がった。
 開いたままだったカーテンを閉めようとすると、作業机に置いてある枯れた花と、写真立てが目に入った。

 大切な思い出の花と、愛しい恋人が微笑んでいる写真。
 それを見ると、いつもは自然と笑顔になっていたが、今はツライだけだった。


 「………しずくさんに連絡しなかったな………。しずくさん、寂しがってる、よな……。」


 作業に没頭してしまい、気づいた夜中になっていた。それは、言い訳にすぎない。
 今、しずくと話しても彼女を心配させるだけだと白は思っていた。

 何をしても仕事の事しか考えられないのだ。
 昨日、彼女と一緒に過ごしていても、素直に笑えなかったのだ。
 そんな自分を見て、しずくはとても悲しそうな顔を見せたのだ。一緒に居たいと思ってくれた彼女の気持ちに気づきながら、素直に喜べなかったのだ。


 「しずくさん、ごめんなさい………。早く落ち着かないと、不安にさせるばかりだ…………。」



 白が焦れば焦るほど、いい案は浮かばくなり、気づけば、ペンを握る手は止まっていた。