9話「一緒です。」




 その日から、白はキャラクターデザインの仕事に没頭していた。慣れない仕事のため苦戦しているようで、連絡する度に「難しいです。」と話しをしていた。
 年末という事もあり、しずくの仕事も忙しくなっていた。発表会や子どもの成長記録、年賀状書きなど様々な仕事が山積みだった。
 お互いに仕事が多忙となり、なかなか会えない日が続いたしずくと白だったが、毎晩の連絡は欠かさなかった。おやすみの挨拶だけの事もあれば1時間以上話す事もあった。
 会えないのは寂しいけれど、しずくは白が仕事に集中出来るように出来るだけ無理は言わないつもりだった。


 『少し時間が取れそうなんですけど、明日仕事は何時に終わりますか?お向かいに行きます。』


 そう言われたのは、最後に会ってから2週間が過ぎようとしていた頃だった。
 その声は少し疲れており、しずくは心配になった。

 
 「白くん、大丈夫?無理してない……?もし疲れてるなら別の日でもいいよ。」
 『……しずくさんは、僕と会いたくないですか?』
 「え………。」


 白らしくない言葉を聞いて、しずくは戸惑ってしまい言葉を失った。
 彼がマイナスな事を口にする事はほとんどなかったのだ。しずくは、言葉よりもその彼の様子が気がかりだった。


 「そんな事ないよ。白くんに会いたかった。何回も白のおうちに行きたくなったよ。」
 『そうですか……一緒ですね。』


 しずくの言葉を聞いて安心したのか、白の声が少し声が明るくなった。その変化を感じ、しずくはホッとした。


 『では、明日会いに行きますね。……では、仕事に戻るので。……おやすみなさい、しずくさん。』
 「無理しないでね、白くん。おやすみなさい。」


 しずくがそう声を掛けると『はい。明日楽しみにしてますね。』と、言って電話は切れた。


 どんなに仕事が忙しくても、あまり態度に出なかった白。けれど、今回の仕事は今までやったことがないジャンルへの挑戦。そして、有名なゲームというプレッシャーがあるのだろうか。
 白への心配が拭いきれないまま、しずくは次の日を迎えたのだった。