「大丈夫だよ。気を付けてゆっくり来てね。待ち合わせ場所ならいくらでも時間は潰せるし。」
 『すみません……本当なら僕がいろいろ案内するつもりだったのに。』
 「会えたときに詳しく案内して欲しいな。白くんの昔のお話聞きたいし。」
 『…………わかりました。では、仕事が終わったらまた連絡します。』
 「うん。頑張ってね……待ってる。」
 『楽しみにしてます。』


 白の優しい声を聞いて、しずくは電話を切ってすぐにでも彼に早く会いたいな、と思ってしまった。仕事になってしまった事は仕方がないと思いつつも、白との時間が少し減ってしまったのは悲しくなってしまう。
 付き合ったばかりとはいえ、しずくは自分でも彼に惚れ込んでいるな、と自覚していた。
 けれど、それを恥じたり、改めようとは思うはずもなく、彼をもっと好きでいたかった。


 「白は遅れるって言ってたけど、先に待ち合わせ場所に行こう!」


 しずくはスマホを鞄にしまって、歩き出した。もしかしたら白の仕事が早く終わって、すぐに来てくれるかもしれない。
 そう思ったら、しずくの足はその目的地へと足早に進んでいた。


 
 今日のデート場所は、少し離れた場所にある街だった。
 しずくは電車を乗り継いで、目的地へと向かった。駅を降りると、昔ながらの商店街が続いていた。スマホのアプリを見ながら進んでいくと、目的の場所はすぐに現れた。
 近くには公園があり、商店街から少し離れていた場所なので、静かな雰囲気に佇んでいる建物。

 それは、少し古びた図書館だった。
 2階建ての煉瓦の建物で、周りには大きな木が図書館を守るように並んでいた。
 大きな窓もあり、そこからは中の様子が見えた。

 しずくは、その外観を立ち止まって見つめた。


 「ここが白くんがよく来ていた図書館………。」


 白がしずくとの次のデート先に選んだのは、とある小さな図書館だった。
 そこは白が幼い頃によく通っていた図書館で、時々訪れることもあるという白のお気に入りの場所だと教えてくれた。

 しずくと白の2人は、学園祭のデートから図書館巡りがブームになっていた。
 といっても、なかなか出掛けられないので、近くの図書館を訪れてみたり、本屋で世界の図書館の写真集を見たりする事が多かった。そんな時に、「昔よく行っていた図書館に行ってみませんか?」と白に誘われたのだ。
 しずくは、すぐに「行きたい!」と返事をして、次のデート先が決まったのだった。
 白がどんな子どもだったのか、どんな街で育ったのか、しずくは知りたいなと思ったのだ。

 好奇心を抑えられず、しずくは微笑みながらその図書館に足を踏み入れた。
 その図書館は古びた建物だが、中はとても綺麗に使われているからか、清潔感があり温かみがある雰囲気だった。
 子どものために低いカウンターや、所々にある手すりや椅子。今月のおすすめの本や新刊紹介のポップも手作りで可愛らしいものだった。
 しずくは、職場である保育園に似ているな、と思った。