6話「大人の可愛いお願いは」




 しずくは、忘れてしまっていた。
 
 白からデートの事を言われてから、ドキドキしていたというのに、どうして忘れてしまったのだろうか。

 原画展が楽しすぎたのもあるし、車で寝てしまったのもあるだろう。
 けれど、目の前にずっと彼が居たのに、幸せに浸ってしまっていた。
 
 ずっと緊張しているよりデートを純粋に楽しめた方がよかったのかもしれない。それに、しずくが意識してしまうのを予想して、白が原画展のデートを準備してくれたのかもしれない。
 そう気づくと、しずくは彼の気持ちに感謝しながらも、先ほどから鼓動が激しくなってしまっていた。


 「しずくさん、緊張してます……よね?」
 「あ……うん。ごめんなさい。年上なのに、こんなのダメだよね。」

 
 カフェを出て、白の車に戻って来てすぐに白はそう言った。
 しずくは戸惑いながらも返事をすると、白は少しぎこちなく微笑んだ。


 「僕も同じです。」
 「白くん………。」
 「でも、僕を意識してくれてるの嬉しいので。その、年下とか年上とか関係ないですよ。」
 「………うん。」


 しずくを落ち着かせようとする彼の言葉。
 年下だというのに、そういう気配りが出来る白を尊敬してしまう。


 「ここからすぐの場所なので………。向かいますね。」
 「うん。どんな所だろう………楽しみ、だな。」

 
 ぎこちなく返事を返すと、白は「シートベルト大丈夫ですか?」と返事をした後、車を発進させた。
 しずくは、先ほど買ったグッズの入った袋を強く抱き締めたまま、いつの間にか暗くなっていく景色を眺めていた。夕陽の光が見えなくなり、車のライトが道を流れていく頃、ゆっくりと車は止まったのだった。