1話「小さなお願い事」





 学園祭のデートから数ヵ月が経ち、もう季節は冬に変わっていた。
 まだ雪が降るほどではなかったけれど、街はクリスマスムードになっている。
 しずくは、淡い灰色のコートにタイトなロングスカートという服装で街に出ていた。

 今日は、白とのデートの日だった。
 秋は行事が多い季節でもあり、しずくは職場である保育園の仕事に追われて過ごしていた。白は時々しずくの家に遊びに来てくれ、2人の時間を過ごすことは出来た。それでも持ち帰りの仕事は多かったため、白が自宅に居る時も仕事をしなければいけない事が多々あった。
 しずくは申し訳なく思っていたけれど、白は「しずくさんと一緒に過ごせれば嬉しいですよ。」と、微笑みご飯やお菓子を作ってくれたり、手伝ってくれたりしてサポートまでしてくれた。

 何とか落ち着いてきたのが最近で、久しぶりの外出デートだった。

 しずくは、待ち合わせよりも少し早い時間に家を出て街を歩いていた。寒いのは苦手だったけれど、久しぶりのデートで家にいるのは我慢出来なかった。
 白は迎えに来てくれると言ってくれたが、その前は仕事だと聞いたので、しずくは自分で行くから大丈夫と断った。散歩もしたいから、と言うと、白は渋々納得してくれたのだ。
 付き合い初めてから数ヵ月が経つが、白はいつまで経ってもしずくに甘かった。



 大きなクリスマスツリーがあり、しずくはそれを眺めている時だった。
 しずくのスマホが、ブブブッと震えた。すぐに画面を見ると、もう少しで会う予定の恋人である羽衣石白の名前が表示されていた。
 
 しずくは雑踏の中、少しでも静かな所に行こうと、裏路地に向かいながら通話のボタンを押した。


 「もしもし。白くん?」
 『しずくさん、待ち合わせ前にすみません。』
 「ううん。私は大丈夫だよ。どうしたの?」
 『実は仕事の取材が押していて、待ち合わせに遅れそうなんです。……すみませんが、待っていて貰えますか?』
 

 電話口からは、白の申し訳なさそうな声が聞こえてくる。
 きっと仕事が押してしまい、白は焦っていたのだろう。
 そんな彼の気持ちが嬉しくて、しずくは微笑んでしまう。