「私が絵本の読み聞かせ会に誘ったのがきっかけだったけれど、初めはなかなか来てくれなくてね。」
 「それはそうですよ………。みんな幼稚園の子どもばかりでしたから。」
 「でも、途中から毎回のように来てくれるようになったのよ。私は嬉しかったのよ。」

 おばあさんの顔は懐かしむように遠い目をしていた。
 白が絵本の読み聞かせ会に参加するようになったきっかけは、きっと「キノシタイチ」の作品と出会ったからだろう。
 そう思ってちらりと白を見ると、微笑みながら頷いてくれた。


 「白くんは、そんな幼少時代を送っていたんですね。」
 「えぇ。だから、中学生の後半ぐらいになってからかしら。白ちゃんが来なくなってから、寂しかったわ。」
 「………菫さん。」
 「でもね、ここに来なくなった事は良い事だと思っていたの。ここで一人で過ごすより楽しい事や夢中になれる事が見つかったのだと思っていたから。」


 そう言いながら、菫は白の瞳をまっすぐ見つめた。その瞳はとても澄んでおり、菫の心を表しているようだった。


 「それに、素敵な相手を見つけていたみたいだからね。」


 そして、その瞳を細くさせて今度はしずくを見た。
 しずくと白の関係をすぐに理解したのだろう。しずくは、恥ずかしさから頬を染めていたが、白はとても嬉しそうに「はい。」と返事をしていた。


 「ずっと片想いをしていて、ようやく恋人になることが出来ました。栗花落しずくさんです。」
 「は、白くんっ………。」
 「しずくさん。今日は私の代わりに絵本の読み聞かせをしてくれて、本当にありがとう。子ども達は本当に楽しそうに本を見ていてくれて、素敵な時間だったわ。私も勉強になったの。………また、遊びに来た時にでもぜひやってみて下さいね。」
 「こちらこそ、楽しい時間をありがとうございました。子ども達が本が大好きなのを知って嬉しくなりました。菫さんが、いつも絵本を読んであげているからなんでしょうね。」
 「そうかしら。……そうだと嬉しいわね。」