3話「初めての光景」




 ★★★




 「………混んでるな………。これだと大分遅れてしまう。」


 白は焦りながら車の時計を見つめていた。
 待ち合わせの時間からかなり過ぎていた。 
 もっと時間がかかると思っていた仕事を急いで終わらせ、予定よりも早く出たはずだった。
 けれど、道路が渋滞していたのだ。
 予想以外の混雑に、白は焦りながらしずくにメッセージを送っていた。けれど、一向に既読にならないのだ。仕事中ならわかるが、今は待ち合わせをしており、しずくを待たせている状況だ。普通ならすぐに既読になり、返事が来そうだったので、白は少し心配になっていた。

 図書館で本に夢中になっているのならいいが、行く途中で何かトラブルに巻き込まれてはいないか、変な男にからまれていないか……そんな心配をしてしまうのだ。

 早く図書館に向かわないと、と気持ちが焦るばかりでなかなか車は進んでくれない。そして、しずくからの連絡もないのだ。
 白は気が気でない思いで、運転を続けたのであった。



 待ち合わせ場所の近くの駐車場に車を置いて白は走った。
 スマホを握りしめながら、図書館に入る。以前として、しずくからの連絡はなかった。
 館内を走るわけにもいかないので、白は早足で館内を歩き回りしずくの姿を探した。読書スペースにも、本棚から本を探す人の中にもしずくはいなかった。
 もしかしたら、と思い白は児童図書のスペースに足を踏み入れた。

 すると、ずっと聞きたかった彼女の声が聞こえて来たのだ。
 白はゆっくりとその場所に向かうと、そこにはキッズスペースがあり、子どもに囲まれて楽しそうに微笑みながら絵本を読む、しずくの姿があった。
 窓からは太陽の温かい光がそのスペースを照らしており、しずくの顔や瞳がキラキラしているように見えた。

 白はその姿を呆然としながら見入っていた。
 しずくはこんなにも穏やかに笑い、心の底から子ども達が好きで仕方がないように絵本を読んでいた。彼女の視線は、子どもを優しく見つめていたり、楽しそうに絵本を見たり。そして、場面によっては彼女の口調や表情も変わる。
 そんなイキイキとしたしずくの姿を、子ども達はいつも見ているのだと思うと、少しだけ嫉妬してしまいそうだった。