初秋。
街を歩く女性達の服も落ち着いた色合いに変わった。
夏輝は都心の高層マンションに引っ越し、小さな個人事務所を開いた。
とは言え、すでに海外でも国内でも実績を残している夏輝には熱狂的なファンも多い。
それなりのブレーンだっているわけだから、俺の出番なんてなさそうなんだが・・・

「夏輝が週末に打ち合わせもかねて飲まないかって言ってきたぞ」
愉快そうに俺を見る一颯。

「うーん、俺は無理だ」
「仕事か?」
「いや、爽子と出かける約束がある」
「ふーん」
何か言いたげな顔をして、一颯は黙った。

考えてみれば、夏輝と別れてから6年。
その後、まともに付き合った人はいなかった。
もちろん仕事が忙しいのが一番の理由だけれど、それだけでもない。

俺は、ずっと、夏輝を引きずっていた。

「今、お前の中で、夏輝と爽子さんってどうなんだよ」
悪戯っぽい笑顔は引っ込めて、真面目な顔をする10年来の親友。

「どうって、何が?」
「だから・・・お前はどっちが好きなんだ?」

はあ?
危うく、俺は持っていた書類を落としそうになった。