「爽子さん」

「えっ?」

「どうしたの、ボーッとして」

窓から外を眺めながら物思いにふけっていた私は、泰介さんに声をかけられてびっくりした。

「ごめんなさい。考え事をしていて」

本当は2年前のことを思い出していた。とは言えない。

「もしかして、体調が悪いの?」
「いいえ、元気です。泰介さんこそ、疲れているんじゃありませんか?」
「少しね」
疲労の色を隠そうともしない泰介さん。

「お食事、次回にしましょうか?」
出張開けの今日くらい家でゆっくりしたいのかも。

「何言ってるの。爽子さんとの食事を楽しみに帰ってきたのに。今更お預けはなしだよ」
「えっ」
自分でも顔が赤くなっているのがわかる。

「ほら、行くよ」
テーブルの置かれた伝票を泰介さんが持ち、レジへと向かう。
「あ、待ってください」
自分で飲んだコーヒーくらい払います。

その時、

ブブブ ブブブ
携帯の着信。

「もしもし」
泰介さんが電話に出ると、

『お休みのところ申し訳ありません』
電話の向こうから、上品そうな女性の声がかすかに聞こえた。

きっと仕事の電話なんだわ。

ごめん、ちょっと待って。
泰介さんは手振りで説明し、一旦カフェを出て行った。