嫌なことがあっても向かっていくことをしない私は、いつも真っ先に逃げ出してしまう。
要は意気地なしなんだ。

ブブブ ブブブ。
さっきから着信が鳴り止まない。

それでも私は無視し続けた。

『爽子、何してるの。みんな心配してるのよ」
由梨からのメール。

私にだってわかっている。

連絡もせずに外泊すれば、パパもママも大騒ぎしているはず。
もちろん『1人になって考える時間が欲しいからしばらく留守にします』と、メールを送った。
そんなことで納得しないのはわかっているけれど、1人になりたい。


「お客さん東京から一人旅ですか?」

たまたま立ち寄った海辺の街の小さな喫茶店。
人の良さそうなマスターが話しかけてくれた。

「そうなんです。大学卒業記念の一人旅。この辺に宿ってありますか?」
ちょっとだけ嘘をついて情報収集。

「この先10キロほど行くときれいな海岸があってホテルや民宿が何軒か並んでいますよ。今はちょうどオフシーズンだから、どこも空いてるんじゃないですかね」
「へー」
とりあえずそこに行ってみよう。