「何度も会ったか?」
「いいや。その時一度きりだ。この間、偶然会社のロビーで再会してびっくりした」
「ふーん」

きっと本当だろう。
一颯は、そんなことで嘘をつく男じゃない。

「朝まで一緒だったのか?」
「ああ」

って事は・・
自分の顔が引きつっていくのがわかる。

人は誰だって過去がある。
そんなことは俺だって分かっている。
そのことについてクドクド言うのは卑怯だとも思う。
分かってはいるんだ・・・頭では。
でも、気持ちがついていかない。

「やっぱり、ショックみたいだな」
哀れむような口調。

そんなことはない。と虚栄を張りたい。
過去なんてどうでもいいと、笑い飛ばしたい。
しかし、今の俺にはできない。


「すまなかった。もっと早く言うべきだった」
テーブルに手をつき、一颯が頭を下げる。

「いや、言わせなかったのは俺の方だ」

俺にだって付き合った女性は何人かいる。
そう言う関係になったのも1人じゃない。
でもなあ・・・

ククク。
「彼女は特別みたいだな」
意地悪い顔をした一颯。

「うるさい」
すっかりいつものペースに戻った悪友を前に、俺はうっすい水割りを一気に空けた。