「はい、どうぞ」
司がグラスを2つテーブルに置いた。

中身は・・・
「水割りです。薄いですよ」

「はあ?普通のもってこいよ」
一颯が言うが、
「今のお前達には水を出したいくらいだ」
有樹の言葉で黙った。


爽子が飛び出してから30分。
カウンターからテーブル席に移動し、俺と一颯は向かい合った。

「で?」
不機嫌そうな一颯。

で?って、言いたいのは俺の方だ。

「説明してくれ」
まずは聞かないと、どうしようもない。

「彼女に始めて会ったのは2年前。ちょうど、大口の取引をしくじった時だ」
2年前って・・・
「あの時か?」
「ああ」

確かに2年前、一颯にしては珍しく仕事でミスをした。
ミスとは言っても間違いを犯したわけではなく、初めての取引先だと思っていた企業が実は親父さんの下請けで、あわよくば一颯に取り入ろうとしたことがわかりこっちから契約を切ってしまった。
一颯の気持ちもわからなくはないが、ビジネスである以上やっていいことではない。
うちの常務達からは𠮟責され、大口株主である親父さんにはさんざん嫌みを言われ、さすがにへこんでいた。

「あの時、偶然街で出会ったんだ。彼女も落ち込んでいたし、なんとなく気があって一緒に飲みに出たわけだ」

「爽子がねえ」
簡単にナンパされて着いて行く子じゃないと思うけれど。

「彼女は彼女なりにコンプレックスを抱えているんだと思うぞ」
「ふーん」
俺の知らない爽子を自分は知っていると言いたいか?