「無理強いする気はないよ」
黙り込んだ私に、泰介は笑いかける。

「うんん、行きたい。できればのんびりしたいから」

「「温泉」」
2人の声が重なった。

と言うわけで、初めてのお泊まり。
必然的に、私たちは一線を越えてしまった。

泰介はきっと、私に経験がないと思っていた。
今までに付き合った人はいないと伝えた覚えがあるし、子供じみた私にそんな経験があるなんて想像もしていなかったはず。
2人の体が重なる瞬間、一瞬泰介の動きが止まった。
あ、気づいたんだ。と、分かった。
それでも、優しく大切に抱いてくれる泰介。
嘘をついていたようで、申し訳ない気持ちが溢れた。
涙が止まらなくなった。


「爽子、行くよ」
ちょうど泰介の実家に到着し、止まった車からなかなか降りない私に泰介が声をかける。
「あ、うん」

さすがにちょっと緊張しながら、私は泰介の後を追った。