こんな恋の話【短編集】






「何勝手なこと言ってんだよ?何がわかるんだよ?お前なんかに…」


いきなり開いたドアに、驚いて振り返ると、そこにはさっき以上に怖い顔をした祐希がいて。


「何わかったような口聞いてんだよ?“お前”なんて気安く呼んでんじゃねぇ!!」


今まで聞いたことがないような低い声に思わず体が震えた。


「何、偉そうなこと言ってんの?お前は別に七瀬の彼氏じゃないだろ?」


そんな祐希に怯える様子もなく、遠藤は落ち着いた口調でそう言った。



「うるせぇよ。お前こそ何偉そうなこと言ってんだよ?……お前が実胡の何を知ってるってんだよ?」


ねぇ、祐希。


何言ってんの?


「知ってるよ?七瀬の好きなヤツも、七瀬がいつも辛そうだったのも。お前なんかより、よっぽど知ってる。」


遠藤の言う通りだよ。


祐希は何にも知らないよ?


私のこと、何にも知らないよ?


「……ざけんな!!俺はずっと見てきたんだよ。実胡の傍でずっと!!」


そんなこと言っちゃ嫌だよ、祐希…


私、バカだから。


期待しちゃうじゃん…?


「負けず嫌いな性格も、意地っ張りで素直じゃないとこも。」


ねぇ…


「寂しがりやで泣き虫で。未だにブランコ漕ぐの下手で。」


何で…?


何で知ってんの?


バカだよ、祐希。


すっごくバカだよ…


祐希は幸が好きなんじゃないの?


「もっと、もっといろんなこと、知ってる。好きなヤツは知らなくても、実胡が辛そうなのは見ればわかる。」


そんなこと言われたら、もう祐希から離れられないじゃん…


離れてあげないよ?


「ずっと見てきたんだ。実胡だけ。ずっと、見てきたんだ。」


そう言った祐希は、何故かどこか切なげで。


気づいたら、また涙が溢れ出ていた。